突然ですが「仕事がデキる人」ってどんな人でしょうか?
陰気で不潔でだらしなさそうな人?それとも、明るく小ざっぱりした身なりの人?小さな声で何を言ってるか分からないほどボソボソしゃべる人?それとも聞き取りやすい声で明瞭に話す人?猫背でダラダラ動く人?それとも胸を張ってキビキビ動く人?
見た目だけで人を判断することはできませんが、大抵の場合、仕事が良くできる人というのは「自分を客観的に見る能力」にも長けているので、見た目もそれなりに整えていて、パリッとした人が多いですよね。(自分では仕事ができるつもりだけど、実際はそうでもない……という客観性に欠けるタイプは、オメカシしていてもどこかズレでいたりしますが)
仕事がデキるからパリッとしているのか、パリッとしているから仕事がデキるのか、まるで卵が先な鶏が先かというような話ですが、実はできるビジネスパーソンが見た目をいつもきちんと整えているのには、それなりの理由があるのです。
身だしなみが心に与える影響
身だしなみには、その人の精神状態が如実に現れることが多いといいます。
うつ病の初期症状に、「身なりを気にしなくなる」「掃除をしなくなる」というものがありますよね。介護の現場などでも、生活意欲が低下しているご老人は身だしなみに構わなくなるそうです。
実際、私たちも日常生活の中で精神的、物理的に余裕がない時は「身なりになんて構ってられない」という状態になることがありますから、「気力の低下=身なりのだらしなさ」というのは、経験として分かるような気がします。
また、精神状態が身だしなみに現れるように、身だしなみが精神状態に作用する事もありますよね。オシャレをしたら気分が高揚したり、制服を着たら気分が引き締まったりした経験は誰にでも少なからずあるでしょうし、逆にその日の自分の身だしなみがキマッていないというだけの理由で、何となく気分が落ちてしまうこともあります。寝癖が直らないとか、コーディネートが決まらないまま家を出なくてはならなかった日は、一日なんとなく落ち着かない気分だったりしませんか?もしくは、せっかくブローした髪が雨でうねってしまった日は、鏡を見て憂鬱になってしまったり。
つまり、身だしなみを整えることには、周囲に与える印象を良いものにするだけでなく、自分の心を整えるという役割もあるのです。
ディズニーランドや「割れ窓理論」から学ぶ、ディテールの重要性
「割れ窓理論」をご存知でしょうか?アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング教授が行った実験を元に提唱される理論で、「ごく軽微な犯罪の取締りを強化する事で、結果として凶悪犯罪の発生件数が激減する」というものです。ケリング教授は次のような実験を行いました。
ある場所に車を一週間放置しても何も起こらなかったが、その車の窓ガラスを一枚割った状態で放置すると、すぐに車の備品が盗まれ始め、他の窓もすべて割れてしまい、あっという間に車はボロボロになってしまった。
教授はこの実験から、「たとえ軽微な反社会的行為であっても、それを放置すると、その場所はモラルが低下し、どんどん荒れていってしまう」という説を発表しました。この説を採用して、「かつてアメリカ一の犯罪都市」といわれたニューヨークの犯罪発生率を激減させる事に成功したのが、1994年から2001年までニューヨークの市長を務めたルドルフ・ジュリアーニ氏です。市長はまず、「凶悪犯罪の取り締まりを徹底せよ!」という周囲の声をよそに、ニューヨークの地下鉄の落書きを消すよう指示しました。
周囲の人達は落書きを消したくらいの事で犯罪都市ニューヨークの治安が改善するはずなどないと思っていましたが、実際にはニューヨークの地下鉄から落書きが消えてからというもの、街での凶悪な犯罪発生率が目に見えて低下しました。この功績は世界的にも有名で、「最も多く犯罪率を削減させた市長」としてギネスにも掲載されています。また、荒れている学校は校舎のあちこちに落書きがあったりゴミが落ちていたりすると言いますが、それらを掃除することで学校が立て直された例が多数あります。
逆に、ほんの小さな傷やチリひとつない環境を保つ事で、利用者や従業員のモラルを向上させる事に成功したという代表例に、ディズニーランドがあります。ディズニーランドの清掃は24時間体制で、閉園後の清掃などは「赤ちゃんがハイハイできるレベル」で行われるそうです。これには「汚れたらすぐに対応する」というだけでなく、そもそも「汚させない」という効果があります。ゴミだらけの汚い場所に、更にゴミを捨ててしまう事に抵抗感は少ないものですが、ピカピカに磨き上げられた床の上にゴミなんて捨てられないのが人間の真理というもの。「夢の国」を支えているのは、徹底した清掃というわけです。
これらは、小さな綻びを放置すればあっという間に大きな綻びへと繋がってしまうという教訓でもあり、逆に小さな綻びを放置しないことで良い状態を保てるという希望でもあります。最初はたった一箇所の綻びに過ぎなかったものを、放置するか、それとも即座に対処するかによって、結果にこれほど大きな違いがでるのですから、ディテール、つまり細部の事とはいえ侮れません。
こうした話は、なにも市や巨大なテーマパークに限った話ではなく、ひとりひとりの生活にも当てはまります。前述の通り、うつ病の人や生活意欲の低下したご老人は、身なりを整えたり身の回りを掃除したりする事ができません。その気力がないからです。そして、だらしない自分の姿や汚れた環境は、ますます当人から気力を奪っていってしまいます。
でも、逆に言えばマメに身だしなみや身の回りを整える事で、気分を上げていくことも可能です。うつ病の治療の一環に掃除が有効という説もありますし、生活意欲の落ちたご老人の身なりを整えてあげる事で、ふたたび生活意欲を取り戻したという例も多くあります。
そういえば学生時代、学校の先生が「服装の乱れは心の乱れです!」と目くじらを立てていました。思春期の頃はそう言う先生たちを「たかが見た目で人を判断するなんて、大人ってバカだな」なんて、どこか醒めた思いで眺めていたものですが、大人になってみると先生たちの言っていたことは正しかったのだということが今更ながら分かります(先生たち馬鹿にしてすみませんでした)。
ビジネスにおいて、初対面の場で登場するアイテム、名刺入れ。ちゃんとしたものを使っていますか?こういう細かいところ、案外バッチリ見られていますよ
大切なのは、自分で自分を定期的にチェックすること!
大人になると、私服について注意される機会やチェックを受ける機会はグッと少なくなります。業種によっては全く無くなることもありますね。しかし、それは自由で楽な反面、「もしも傍から見てちょっとおかしな格好をしていても、誰からも教えてもらえない」ということでもあります。
私服の場合は、好みもありますし、常識だと思う範囲も人によってかなり異なります。みんなそれを分かっているので、多少自分が思う「常識の範囲」から少しくらい外れた格好をしている人を見ても、わざわざ注意まではしません。だからこそセルフチェックが重要です。誰にも注意してもらえないまま無自覚に不適切な格好をし続け、周囲や顧客から「だらしない」「仕事ができなさそう」という不信感を持たれたり敬遠されたりしていたとしたら、仕事がやり辛いのは自分自身。それこそ「たかが見た目」のことで、大損です。
もしも社会人になってから身なりの事で人から注意を受ける事があったら、むしろラッキーだと思いましょう。反発を買うリスクを負ってまで、わざわざ教えてくれたのです。注意された内容が必ずしも100%正しいとは言えませんが、「自分の身なりをみて、そう思う人もいる」という事を知れるだけでも、耳を傾けてみる価値は十分にありますよ。
いわゆる「デキる人」というのは、たかが見た目ごときのことで自分の評価が下がるような愚を犯しません。それどころか、見た目が周囲に及ぼす影響や、自分の精神に与える影響をよく理解していて、それを最大限利用しています。
内勤だからって、オフィスに部屋着のような姿で出勤していませんか?よれよれのシャツを着たり、汚れた靴を履いていませんか?何が入っているかを把握し切れていほどに物を詰め込んだバッグ、伸びっぱなしの髪、それらは周囲にだらしない影響を与えてしまうだけでなく、かえってあなたの心を疲れさせるものです。
ひとつひとつは些細な事かもしれませんが、それらがゆくゆく自分に与える影響は、案外小さくないもの。さっさとサッパリしてしまいましょう。
トップセールスマンになりたい人は、既に自分はトップセールスマンだと思って行動するとその通りになると言います。想像してみて下さい。トップセールスマンは、どんなシャツを着ていますか?どんな靴を履いて、どんな風に歩きますか?何時ごろ、どんな風にオフィスに入ってきますか?きっと、清潔感のあるパリッとしたシャツを着て、ピカピカに磨かれた靴を履き、胸を張って颯爽と歩き、爽やかな笑顔で余裕を持ってオフィスにやってくるのではないでしょうか?
なりたい自分を想像して、創造していきましょう。できる事からすこしずつで構いません。そう、まずは身なりを整えたり、身の回りを生理整頓したりするという、そんな簡単なところからでも始めてみてはいかがでしょうか?