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それでも紙の手帳を使う理由

2018.1.5

スマートフォンが普及して久しい昨今、スケジュール管理をネット上で行う人はどんどん増えています。

便利ですよね、ネットでのスケジュール管理。スマホ、PC、タブレット、どんなデバイスからでもアクセスできるし、手帳のように毎年買い換える必要もありません。

紛失時のリスクも、紙の手帳よりデジタルデバイスの方がずっと低いです。手帳は失くしてしまえばそれまでですが、デジタルの場合は、デバイスそのものにパスワード機能があり、遠隔操作でロックしたり、位置を確認したり、アラームを鳴らしたり、最悪の場合はデバイスのデータを全消去するといったこともできます。

また、数年前の予定を遡って確認したり、数年先の予定を設定する事も、デジタル管理なら簡単です。

マンションの更新時期、携帯キャリアの更新月、赤ちゃんの予防接種のタイミングなど、実行が数年先になる予定は案外たくさんあるもの。紙の手帳で管理できるのは、大抵一年分のスケジュールのみですが、そうした数年後の予定を簡単に管理できるのは、デジタルの強みと言えるでしょう。

週、月、年で繰り返しの予定を設定したり、リマインダーを設定できるのもデジタルの便利な点です。この機能を使えば、恋人の誕生日を忘れてケンカになったり、レンタルビデオの返却期限を忘れて高い延滞料を支払うこともありません(笑)

けれど、それでも日本ではいまだ多くの人が紙の手帳を愛用しています。

デジタルに疎い人達だけではありません。デジタル機器を自由自在に使いこなすビジネスパーソンや、物心付いたときからデジタル機器に慣れ親しんでいる若い世代にも、手帳の愛用者はたくさんいます。なんなら、デジタルでスケジュール管理をしながらも、紙の手帳を使っているというツワモノもいるほどです。

これは一体、なぜなのでしょうか?

デジタル機器にはない、紙の手帳ならではの魅力とは

日本人の手帳好きは、もはや文化

毎年秋頃になると、書店や文具店に来年用の手帳がずらりと並びます。薄型の小さなポケットサイズの手帳から、A4サイズの分厚いシステム手帳まで、実に豊富な種類の手帳が取り揃えられ、リフィルもマンスリータイプやウィークリータイプ、バーチカルタイプなど多種多様。デザインも、ビジネスシーンに似合うシックなタイプもあれば、女性や若者がプライベートで使うようなポップで可愛いものなどもあり、様々なターゲット層に向けて商品が展開されています。

そんな手帳売り場の前に立つと、日頃は手帳を使う習慣のない人でさえ、思わず色々と手に取って見てしまい、つい買ってしまうということも珍しくありません。

日本で発売されている手帳活用に関するビジネス書は1,000冊を軽く超えていますし、手帳買い換えの時期になると、あらゆる雑誌で手帳の選び方や活用術に関する特集が組まれます。それだけ手帳を使っている人が多いとういことでしょう。

しかし実はこれ、日本特有のものらしいです。

海外では紙の手帳を使っている人はとても少なく、スマホで管理したり、そもそもスケジュール管理自体していない人も多いのだとか。だから外国人から見ると、日本人は異様なほどに手帳が好きな民族に見えるそうです。

あるイギリス人コンサルタントは、こんなことを言っています。

「私の母国ではデジタル化が進んでいるから日本のような状況は考えられない」
「ビジネスで紙のノートを使うなんて、かつてアナログレコードや白黒テレビが存在した20世紀みたい」

出典:欧米ではありえない、日本人の「手帳好き」(前編)

この人は、日本人が紙の手帳を使うのは、デジタル管理の便利さや合理性を理解できていない「遅れている国」だからだと理解しているようで、iPhoneを使ったスケジュール管理がいかに素晴らしいかを記事の中で力説されていました。

いや、日本人もiPhoneの使い方くらい知ってますって……(笑)

たしかに、便利なものと不便なものがあって、あえて不便なものを選んでいるのだから、その便利さを理解していないの?バカなの?と考える彼の気持ちは分からなくもありません。でも、人間の価値観は合理性や利便性がすべてではないんですよね。

風景や人物の姿を記録したいだけなら、写真やビデオで十分なのに、このハイテクの世界で、人はそれでも絵を描きます。車も新幹線も飛行機もあり、人を早く移動させる手段なんていくらでもあるけれど、世界から人の足の速さを競う陸上競技はなくなりません。絵を描いたり陸上競技を楽しむ人は、何が合理的で便利かも分からない考え方の遅れた哀れな人達なのでしょうか?いいえ、むしろ人生を楽しむ術を知る豊かな人たちです。

手帳だって同じです。デジタル管理が便利なのは当然知っているけれど、それでも手帳が好きで、楽しいから、あえて紙の手帳を使うのです。

手帳を選ぶ楽しさ、自分なりの使い方を追求する楽しさ、手書きの楽しさ、読み返した時の楽しさ、――アナログの手帳を使う理由はたくさんあります。「合理的か、便利か」という価値観でのみ物事を捉えていては理解できないのが、日本の手帳文化だといえるでしょう。

手帳はセンスを思う存分発揮できる表現の場

手書きの手帳を思う存分楽しむ人は、その様子をしばしばSNSなどでシェアしています。

nyororoさん(@nyororo)がシェアした投稿 -

投稿された手帳の紙面を見てみると、スゴイですね。スケッチをしたり、マスキングテープで装飾したり、色ペンを使ったりと、とにかく使う人の個性や美的センスがこれでもかというくらい反映されています。

彼らが一年かけて使い終わった手帳は、ただの手帳ではありません。ひとつの「作品」と言って良い域のものです。大切に残しておいて、あとから読み返したり、大切な人に見せたりするのもまたステキな楽しみですね。

単純にカッコイイし、ある意味無難

若い人同士であれば、打ち合わせのメモを取るツールがノートPCやタブレット端末でも、何の違和感もありません。しかし、50代以上の方がいる席では、それを「失礼」と取られてしまうことがあります。

若い世代には中々理解しにくい感覚ではありますが、要は「話をしに来ているのに、パソコンの画面ばかり見ているのは失礼じゃないか」ということらしいです。話しながら見るのが紙のノートなら良くて、パソコンの画面はダメというのもなんだか微妙な気はしますが、まあ確かに、打ち合わせ中に相手がPCをカチャカチャやっていると、こっちの話を聞いているのか、ネットで遊んでいるのか分からないという部分もあります。実際、大人数での会議などでは、会議中にメールやネットをしている人もいますしね。

PCでメモを取る方が、後の情報整理や共有が便利になるのは明白ではありますが、その便利さを追求した結果、顧客に不快感を与えて契約が取れなかった、なんてことになったら本末転倒です。不便でも、ここはサクッと割り切って、顧客との席では手帳を使うのが無難だと考えるビジネスパーソンは多いでしょう。

そういう割り切りも賢さのひとつです。

あと、出来るビジネスパーソンが、打ち合わせ時に上質な革の手帳や万年筆をサッと取り出す姿って、単純にカッコよくないですか?あれ、絶対自分がカッコイイってわかってやってますよね(笑)もちろんカッコ悪いより全然良いのですが。

脳は手書きの方が活性化する

スケジュール管理はデジタルでしているけれど、目標管理やアイディアの記録は手書きの手帳を使っている、という人もいます。

これは、デジタルでタイピングする時には得る事のできない、手書きならではのメリットがあるからです。いくつかの研究結果から、手書きには次のようなメリットがあることが分かっています。

手書きの方が記憶に残りやすい。ゆえに学習効果も高い。 手書きの方が集中力が高まる。 手書きの方がより創造的になれる。

こうした手書きの効果を見ると、目標の管理やアイディアを書き付けるのが、デジタルデバイスではなく紙の手帳であることも合理的に感じますね。紙に目標を手書きすると、それが達成される確率は33%もアップしたという調査結果もあるそうです。

また、プロの小説家にも、手書きや、手書きとデジタルのミックスで創作する方は多いようです。林真理子氏などは完全な手書き派として有名ですね。

一般人に比べ、ものすごい量のテキストを書く創作のプロ達が、あえて便利なタイピングではなく、腱鞘炎を患いながらも手書きで作業するのですから、手書きの方がより創造的でいられる、という説には妙な説得力を感じます。

「デジタルVS手書き」の対立構造に意味はない

いかがでしたでしょうか?

デジタルにはデジタルの便利さがありますし、紙の手帳にも利便性だけでは図れないメリットがありました。

スマホで何ができるかロクに知らない人が、
「最近は電車に乗ってもみんなスマホ見てる。本を読んでいる人がいない」
なんて言ったりしますが、スマホで本、読めます。新聞も読めます。

スマホの使い方を知りもしないで、スマホを使っている人は馬鹿で軽薄、アナログ派が知的、なんて思い込んでいるアナログ派は見ていてとてもイタイですが、「いまどきアナログなんて~」と利便性にしか着目していないデジタル思考主義的な考え方も、同じくらいイタイですね。

目的によって、デジタルが良いのか手書きの良いのかは変わってきます。重要なのは、目的や状況に応じて、上手にツールを使い分けることが出来る柔軟性なのかもしれません。